Vol.229 スイス大使館公邸で虫の声とピアノを聴く

Vol.229 スイス大使館公邸で虫の声とピ

東京の港区には、数十カ国もの各国の大使館があります。
昨日は有栖川公園の近くにあるスイス大使館公邸にて、来日中のNik Baertsch's Ronin (ニック・ベルチュ ローニン) のレセプションが行われました。

招待客がくつろいだ後、彼のピアノのソロ演奏が始まりました。彼の指が紡ぎだす音の間には、あたりの静寂と虫の声との繊細な調和が見え隠れし、なんとも心地よいゆらぎを感じる時間が流れていきます。鍵盤をたたきながらも、その静寂さを保ち、そのいくつかの流れを程よい間で連結させていく… 偶然にも広い庭で鳴いている虫たちの声とは別ものでありながらも、自然に一体になる一瞬をその場にいた人は感じたことでしょう。

ニックは自らが持っている独特の個性と共に、日本の中に古くから存在している美しさを敏感に感じとり、自然と共存させて表現しているようで、その研ぎ澄まされた感性には感心するばかりです。それは水琴窟の中の雫音や蹲の響く音…そんな自然の音から何かを感じとっていた、日本古来の感性を思いおこさせてくれるようです。

さて、少し前のこと…私がある施設を調べたり、訪れる予定にしていたところがスイスに関連しているということがありました。その後この公演について知ったのですが、今日はそれらについて関係者の方に話を聞くことができたことは、きっと小さな出会いなのだろうとも思います。

そのひとつは、青山の「ワタリウム美術館」
ここの企画や建物は私にとってはとても興味深いものがあります。スイスの建築家 Mario Botta(マリオ・ボッタ)の東洋で初めての建築作品だということで調べていた矢先のこと…。

もうひとつは、昭和初期のころ…今のこの大使館のある場所には、近藤男爵という方の別邸がありしばらくスイス大使館として使われていたそうです。その後、大使館の建て替えの際に立派な入母屋総檜づくりの建物を壊すことなくそのまま千葉に移築されたのです。(その当時のものなのか、大使館公邸の庭には立派な松ノ木や石灯籠が配置されていました)

移築された建物は「国の登録有形文化財」にも指定され、現在は「生命の森 翠州亭(スイス亭)」として、美しい庭園とともにレストランとして活用されているそうです。大正末期から昭和初期にかけての建築に興味があることから、一度訪れてみたいと考えていたところ、そのスイス大使館を訪れる機会がやってきたのです。

ここのところ北欧のデザインや音楽などが注目され、あちらこちらのメディアにも取り上げられることが多い中、スイスのアーティストなどについては、正直あまり話題を目にすることはなかったような気がします。山と湖の美しさ、それと精密機器を扱っていることからも空気の透明感が印象にある国ですが、これからいろいろな文化を知ることになるのでしょう。

Nik Baertsch's Ronin (ニック・ベルチュ ローニン) 公演
ワタリウム美術館
生命の森 翠州亭(スイス亭)

→写真はフォトログに掲載(The photograph is published in the gallery)