Vol.226 昭和初期の歴史的文化財の立ち寄り湯 〜 伊東温泉にて

Vol.226 昭和初期の歴史的文化財の立ち

山梨の勝沼から河口湖を抜け、伊豆の伊東温泉に移動。
今回訪れた際に、ぶらりと歩いた川沿いの風情にふと足を止めてしまいました。伊東駅から、いちょう通りを下ったところ、ちょっとした路地に昭和初期の情緒溢れる大きな木造建築が並んでいたのです。東伊豆の海岸沿い、伊東の街は熱海などと同様に明治よりたくさんの文人に愛された湯の街です。各所には文学碑や句碑などが点在し、川沿いの温泉街には木造の宿が軒を並べていたそうで、その趣が残っている場所がありました。

すぐ脇を流れる大川にかかるのは「いでゆ橋」。対岸の柳の木の隙間から建物を見た時に「この風景は失くしてはいけないよね」と単純に思ったのでした。建物の川沿いには大きな木立朝鮮朝顔(エンゼルトランペット)が咲き乱れ、川のせせらぎの中には錦鯉と思われる赤い鯉たちが漂っています。柳の木の並ぶ道は遊歩道になっていて、春には見事な桜並木を散歩することもできそうです。

「東海館」は見事な唐破風の玄関の木彫りが印象的です。昭和初期に開業してから、当時は庶民の宿として多くの人に親しまれ賑わったと言われています。建物は高級な木材や変わった木々などが使用され、随所に職人たちの技巧が凝らされ、とても趣のある美しい和風建築です。平成9年に廃館された後は伊東市に寄贈され、平成11年に文化財に指定されました。現在では、観光施設として貴重な歴史的文化財の中の立ち寄り湯のお風呂で誰もがくつろぐことができます。(もちろん天然温泉かけ流しの湯) 館内見学だけも可能でレトロな室内を見ることも…。
5月には川面に特設された舞台で薪能も催され、お座敷文化大学として女性対象ですが「芸者姿体験コース」などの企画もあります。この後、普段中々見ることのできない芸者衆による踊りやお座敷遊びを味わえる企画もあるようです。

その隣に並ぶ「いな葉」は、関東大震災の後〜大正末期に「大東館」として建築され、現在も温泉宿として営業を続けています。こちらも趣きある木造3階建てで各所に巧みの技が…平成10年には同じく指定文化財となりました。文福茶釜の湯としても知られている温泉は、こちらももちろん天然温泉かけ流しで豊富な湯量の源泉があります。独特の形の4階の望楼はシンボルとなり、数寄屋風の客室には風情が溢れています。

人の手による技巧や思いが溢れている場所…自然と心打たれるものですね。今回は偶然通りすがりに出会ったのですが、次回は是非宿泊してみたいと思います。なんだかタイムスリップしてしまったような雰囲気に、時を越えてその時代の歴史の香りを感じることができそうな街並みでした。

いな葉
東海館

いな葉
伊東観光協会 

→写真はフォトログに掲載(The photograph is published in the gallery)