Vol.140 セルジュ・ルタンス…夢幻の旅の記録 〜 HOUSE OF SHISEIDO

Vol.140 セルジュ・ルタンス…夢幻の旅

資生堂のイメージクリエーターとして、数々のインパクトのある作品を創りだしたSerge Lutens (セルジュ・ルタンス)の企画展が開催されている。この企画のために1年以上もの歳月をかけて、彼の意思を表現すべく準備がされ、その過程では「禅の精神」「黒と紫」「角(アングル)と直線を大切に」「過剰なもの、媚びるものは排除する」という彼が希望するディテールも具現化されたという。会場には「悪魔と奇跡」「不動の旅人」「赤と黒」など、24のテーマによって分類された100点あまりの作品がちりばめられ、妖しげで謎めいた空間ができあがっていた。
セレクトされた広告で使われたオブジェやアクセサリー、写真、その配置、照明、場の設計、どれをとってもすばらしいものであった。コーナーをまわるたびに鳥肌がたつような美しさが続き、創作されたものが一番美しく効果的に目に入ることまで考え尽くされた構成…私にとって何一つとしてインパクトのないものはなかった。
彼は多くのフィルム制作も手掛けていたが、ブランドのために制作したフィルムは数々の国際フェスティバルで受賞している。今回「Les Stars (レス・スター:星)」「Suaire (シュエール:聖骸布)」という2本の短編映画が日本で初公開されたが、その映像を前に思わず立ち尽くしてしまった…。
昨年の6月にパラジャーノフの映像詩を改めて見る機会があったが、こんなにインパクトのあるものはその時以来かもしれない…。その場を立ち去りがたい時間が長く続いた。その空間には言葉では表現し尽せない何かが多く存在していたのだ。
資生堂のイメージを気にしだしたのは、4〜5歳くらいの時…。
小さい頃、家にあの唐草の模様の入った手鏡があった…きれいなビンも並んでいた。そして花椿が身近にあり、それらに取り入れられている模様がとても好きだった…。大人になって…香料が苦手なために、それらを化粧品として使わない私には少し縁遠いものがあったけど、そのフォルムやラベルの美しさがいつも気になっていた。広告も今のようにひとつの商品をわかりやすく表面に出すというものでなく、ブランドイメージを主張したさりげないけどインパクトのあるものが多かったような気がする。
しばらくして、日本で一番古い画廊でもある資生堂ギャラリーがリニューアルオーブンし、「美と知を体験する空間」というコンセプトでHOUSE OF SHISEIDOがオープンしたときはちょっと嬉しかった。それから…いつも文化的な発信源として刺激を与えてくれる…。
たぶん期間中に、再度あの映像に会いたくてまた足を運ぶことだろう…。
彼は、現在大半の時間をモロッコマラケシュを拠点に香りの創作を続けているが、9月には「消費物資として、モノとしてあふれる化粧品」への反抗心から作られたという商品(美のための必需品)が久しぶりに発売されるという。

                                                                                                            • -

− ハウスオブ シセイドウ 広報紙「万物資生」より −
展覧会:私はこの言葉が大嫌いだ。
暗示、問いかけ……すべてが大きな神秘でありつづける。
名づけることはできても、文に記すことのできないものとして。
by セルジュ・ルタンス

→写真はフォトログに掲載