Vol.139 ブラッサイ-ポンピドゥーセンター・コレクション展 〜トーク

Vol.139 ブラッサイ-ポンピドゥーセン

フランスを代表する写真家ブラッサイの写真展が、東京都写真美術館で始まった。今回の展示は、レンゾ・ピアノによる超近代的な建築も有名であるパリのポンピドゥーセンターの協力によって実現された日本唯一の巡回展となる。
初日の今日は、ポンピドゥーセンターのコミッショナーでもあるアラン・サヤグ氏による本展に関連したレクチャーを、館内のカフェ・シャンブルクレールで聞くことができた。カフェでのレクチャーはとても興味深いもので、彼とブラッサイとのかかわりをはじめ、いろいろな人たちとの交流…特に岡本太郎氏との関係は、写真の撮り方を教えたばかりでなく、引き伸ばし機を譲ったりもしたと言う。また、岡本氏の創りだす縄文式土器ブラッサイはとても興味を示していたようだ。岡本氏が、しかもパリでこんなに写真家と密接なかかわりがあることを初めて聞いたせいか、この時代のパリでの彼の足跡をたどるようで不思議な感じがした。また、シュルレアリストであるサルバドール・ダリピカソゲーテなどとの出会いや、その後にまで及ぶ彼らの影響についても同様である。哲学的でもあり、リアルな世界を表現し続けた彼にかかわった多くの人がいたことを再度実感したのである。
写真の展示会場は、ブラッサイ一色…これは壮観である。

今回、美術館閉館後にいくつかの展示作品についての直接説明を聞きながら、すべての作品を観覧することが実現したのは、とても贅沢な時間であった。撮影に使用したカメラは、ガラス板を用いるためとても重いので、1シーンにつき2〜3枚しか撮ることはなかったそうだ。その中で彼なりの完璧な世界を表現したという。また、露光時間はタバコで時間を計ったというのにはびっくりである。長さの違う2種類のタバコだけでいつも露光の時間を判断したという。
そして、撮影された写真のほとんどは演出によるものであるということを初めて知ったが、私にとってはかなり衝撃的であった。絵画のように写真を創る、写真は自分のイメージした作品を創りだすための「道具」であって、彼なりの美学の中では美術のひとつであったのだ。切り取られた世界は、夜のパリのイメージが強いせいか、いつも闇を感じさせる印象があるけど、意図した作品を創るために巧妙なしかけがあったとは…こんな裏話は、こうしてギャラリートークでもない限り知ることはなかったであろう。
私が一番印象的であったのは、やはりMOMAでの「5人のフランス人写真家」展のためにピックアップされた作品たちだ。プリントのサイズが何しろ大きいので、インパクトがあるだけでなく、それこそ絵画のようであった。
また、彼は「石の人」でもある。ある日、浜辺でふと拾った石のかたちに興味をもったことから創りだされた作品群…。今回もいくつかの彫塑が展示されていたが、夜のパリだけでなく昼のパリ、そして落書きや素描など…未公開の作品も含め、これだけのものをまとめて見る機会は日本ではなかなかないであろう。
東京都写真美術館
当館ではポンピドゥーセンターの企画協力を得た日本唯一の巡回展として、代表作「夜のパリ」「落書き」をはじめ、実験的な「ミノトール」誌での仕事や、ハーパース・バザー誌で発表された「昼のパリ」など193点の写真作品に加え、ベルリン時代とパリ時代の貴重な素描8点、彫塑作品33点の未発表作品を含む全234点を展示。20世紀の巨匠、ブラッサイの全貌に迫ります。

→写真はフォトログに掲載