Vol.131 アンデスのこころ-インカ帝国の末裔たち 〜 田沼武能写真展

Vol.131 アンデスのこころ-インカ帝国

仕事の合間に新宿のエプサイトで開催されている写真展に行く。この場所での展示作品は、撮影されたネガフィルムをスキャンしデジタル処理で画像補正をかけてからプリンタで出力されている。会場にはインクジェットプリンタによる高精度の写真制作を行う際の手順がパネルによって簡潔に紹介されていた。今回の展覧会の作品も作家本人のチェックなどの協力を受け、そのイメージに従ってプリントされたという。
アナログの写真というと暗室で現像〜作品製作というイメージが強いが、プロの作品のデジタル処理の過程を通したものを見ることができる機会は中々ない。インクジェットプリンタによる出力は、全体の質感やモノクロの作品のコントラストなど微妙な部分の表現が何か違うとこだわりを持つ人も多い。現状では紙媒体の印刷工程がほとんどデジタル化されつつあることを考えたら、プリンタの性能次第ではここまでの作品が制作できるという実験的な展示であるこれらを見ることができるのは意味がある。


■エプサイト・デジタルフォト・メイキングブックより

   夏草や つはものどもが 夢の跡

夢ははかない、はかないが故に夢なのかもしれない。今はその夢を育んだかつての霊の声が、山の彼方に、いにしえの神殿や城塞跡にこだまするばかりである。歴史の中に思いをめぐらせばめぐらすほど、実像と虚像の入り交じったカオスにたどりつく。説明は出来なくとも、「平家物語」と共通する世界がそこにあることだけは、確かなのだ。私はこのインカの末裔たちから、南米の中世版「祇園精舎の鐘の声」を画像化しようと試み、インカの王道を旅した。そこは、平家の落ち武者ならぬインカの落ち人インディオたちの諸行無常の姿があるように思えた。宴よりもその跡を、輝きよりも翳りを、永遠なるものよりも短命なものを本能的に求める。私の心がそうさせるのかもしれない。  田沼武能

次回は森山大道氏の写真展「ブエノスアイレス」も開催予定である。

→写真はフォトログに掲載