Vol.70 氣と遊ぶ (HOUSE OF SHISEIDO)

Angie2004-09-09

ハウス オブ シセイドウで開催されている「氣と遊ぶ」は、中国と韓国の作家の作品を展示しているということでも興味深い。昨年、森美術館の「ハピネス」でも多くのアジアの作家による作品を見る機会があったけど、数年前にインドネシアのバリ島やタイに行ってからは特にその独特の雰囲気に惹かれるものがある。(Vol.22 夜空の上で「ハピネス」を観る)
今回「氣」をテーマにしているとはいえ、一階の中央には金箔で黄金色に光る恐竜がドーンと鎮座しているのは意外だった。急速に発展しつつある中国の経済の勢いを表現しているという。そして、その素材となっている石膏や金箔も生薬なのだというのは初めて知った。その他の作品も目で観るだけでは想像もつかないが、それぞれ生薬や炭、絹、ハーブなどを素に作られていて、そこには生薬独特の香りが漂っていた。目で見る作品とともにそこから発せられる「氣」と一緒に遊ぶというコンセプトだ。
二階には、古書がプリントされた紙に包まれた生薬が壁にちりばめられ、まるで韓国の田舎で干している様子を思い起こさせるようにインスタレーションされていた。それと炭と絹を素材に「立っている庭」というフォルムが創られ、ハーブが貼り付けられた内部に入ることができる。それこそ、人間も丸ごと炭で浄化できるといいのにな〜などと考える。
そして、その一角に資生堂の初期の頃からの商品パッケージ、コマーシャルやショーウィンドウのディスプレイに関する資料が引き出しを開けると再生されるしかけができていた。映像を使うことでとても効果的に多くの情報を引き出すことができる。
今回一番印象に残ったのは、宋冬(ソンドン)氏の「漢方薬にまつわるできごと」という映像表現だ。幼少の頃に顔面に怪我をして東洋医学でその腫れが直ったという状況を表現している。素顔と怪我をした顔の2つのデスマスクがおかれたスペースは、少しどっきりだったけど映像の表面に水が揺らめき、それをなでている手があり、母の顔と映像表現特有の無表情な声。その母との親子の間の情感関係が映像で表現され、それらの融合で不思議な感覚の空間ができあがっていた。
ハウス オブ シセイドウは、銀座のギャラリーでも特にお気に入りである。それは、ギャラリーに作品を見に来るだけでなく、私にとってはちょっと一休みできる空間だからだ。デザイン、美術、写真、そして知や美に関する20,000冊もの蔵書がギャラリーの片隅の書棚に並んでいて、形のよいテーブルと椅子で自由に閲覧できる。アジア関連の本もあるので、まるでプライベートの図書室のような感じで訪れられるのは、銀座の雑沓の中のカフェに行くよりずっと有意義なことなのだ…。
本といえば、ABCの閉鎖とその再開は多くの人に波紋を投げかけていたけど、私はどちらかといえばそれぞれのこだわりを感じる小さめなBook Storeが好きだ。六本木のAXISリビング・モティーフの中にある洋書やデザイン関連の書籍が充実している「ビブリオファイル」、渋谷のBunkamuraの地階にある「ナディッフ モダン」などなど。ブックスカフェも増えている中、都会でも本当に自分のプライベートな書斎のような感覚で訪れることができるところがいくつかあるのはうれしい。

こうして今日も慌しい街の片隅でエネルギーをたくさんもらって帰宅したのであった。

→写真はフォトログに掲載