Vol.206 武田信玄の隠れ湯 〜 山梨の温泉にて

Vol.206 武田信玄の隠れ湯 〜 山梨の温

夏休みとはいえ人の少ないのんびりできるところ…しかも源泉かけ流しの湯で湘南の家から2時間程度で行けるところ…という条件で、90歳をすぎてもいたって元気な義父と両親とともに温泉行きとなった。今回訪れたのは、山梨の武田信玄の隠れ湯ということで、湯治場に近い場所なのか、本当に人通りも少なくのんびりできた。体温に近いくらい温いお湯は、暑い季節にはありがたい。ちゃんと暖かいお湯もあるので、交互に入っている人もいるようだ。
飲泉が話題に上る昨今だけれど、ここのお湯は日本一の効用だと宿の人も語っていた。まぁ、人それぞれの症状によって何でも飲めばよいというものでもないけど、昔から多くの有効成分に癒されている人が多いのだろう。実際に義父も20代の頃(すでに70年くらい前の話…)、偶然にも盲腸の傷を癒すためにこの場所に1ヶ月くらい滞在したことがあると言う話にはびっくりするばかり。当時は麻酔や縫合技術なども今とは違っていたのだろう。
近くの身延山方面にも散歩がてら立ち寄り、初めて久遠寺を訪れた。日蓮聖人の遺骨が奉ぜられ、その心霊と共に祀られているというお寺で日蓮宗の総本山だという。宗教にあまり縁のない私はこの地を今日まで知らなかった。法華経を読誦し法華経に命をささげた霊境。総本山として門下の篤い信仰を集め、日蓮聖人を仰ぐ人々の心の聖地として、日々参詣が絶えることがないという。そのとおりに白い装束を着た多くの人が参拝に訪れていたのは初めて見る光景…これから1日の修行が始まるのだろう。信仰の現場をちょっとだけ垣間見たような気がする。
1985年5月に入仏落慶式が行われた本堂はとても立派なもので、「墨龍」という天井画(加山又造画伯作)や襖絵がすばらしい。天井画はどこから見ても目が合うことから「八方睨み龍」と呼ばれているもので、京都の天龍寺にも「雲龍図」がある。9メートル四方に墨で描かれた龍は迫力がある。祖父は狩野派の絵師、父は西陣の染織図案家でもあり、加山画伯(1927―2004)は革新的な日本画として琳派風の装飾屏風など数多くの作品を残している。東京国立近代美術館の大きな壁画や京都の天龍寺法堂の天井画、近代的なものでは成田空港ロビーの陶板壁画など代表的な大作も多く、近年文化功労者として顕彰されている。
日本の古い建築物やその中の美術品の保存などにも興味があるので、ゆっくりと上を見ていると「あの天井に気づきましたか?」とひとりの僧侶の方が声をかけてくれてその由来などを話してくれた。(本堂の外廊下にも白い装束の人が修行をするためかたくさん歩いているのだけどね…) 本堂の中でお参りをしたあとに、単純に「龍」の絵だと認識する人は多くても、一般の人で天井画(水墨画)として興味を持つ人は少ないのかもしれないなぁ。そして手打ちそばや鱒釣りなどでゆるやかな時の流れを楽しんだひととき…。

ツムラ 温泉科学プロジェクト
関東周辺立ち寄り温泉みしゅらん

・無限の空間 ・からだにいい 飲泉 湯治の旅
無限の空間 (加山 又造) からだにいい 飲泉 湯治の旅

→写真はフォトログに掲載(The photograph is published in the gallery)