Vol.96 渡辺貞夫x立木義浩 トークセッション〜Canon Photo Festival

渡辺貞夫x立木義浩 トークセッション

渡辺貞夫氏と立木義浩氏のスペシャトークセッションがキャノンホールで行われた。会場には、立木氏が山形で撮影した写真が大きなサイズに引き伸ばされ壁いっぱいに展示されていた。こんなに大きくプリントされた写真を見られるのはスペース的にも滅多にないだろう。
渡辺氏は、海外のミュージシャンとの共演も多く長年日本のジャズ界をリードしてきた。70年代にはモントルー・ジャズ・フェスティバルに参加、アフリカなど各国へ旅し、世界中に行動範囲を広げながら、音楽を通して日本の文化交流に貢献している。すでにその活動は50周年を超えた。ケニア、インド、チベットなど、長い取材旅行でのロケでの番組も過去に放映されたが、その後チベット雄大な風景写真や遊牧民、壮大な自然に抱かれたチベット、自分と音楽を語ったフォト&エッセイ集「バニシング・チベット」を発表している。
今回は、チベットの写真をスライドで投影しながらそのときの様子や考えを立木氏がうまくひきだしていた。「ご機嫌だねえ〜!」というCanonのデジカメCMがあるが、そのときの写真マスターとしての渡辺氏に立木氏が話を聞くというおもしろい進行だったのだ。経験豊富な立木氏の話術も巧みなものである。渡辺氏は、壮大な地域に行く機会が多いだけにレンズもロングになりがちだけど、とにかくアナログの単体レンズで見たものをそのまま切り取り、難しいことは何もしないと言う。便利なものに慣らされない自分と、各国の奥地に旅したあとの達成感などを語っていた。
アフリカ最大級の音楽イベント「ノース・シー・ジャズ・フェスティバル」に出演した後は、イベントで出会ったバンド、Mpho & Uvimba Bandとのセッションも実現した。「AFRICAN PARTY NIGHTS」のステージを撮影した立木氏のエピソードも交えながら、その写真や音楽、それぞれの立場での話しは経験豊かで巧みな話術によりあっという間に時間が過ぎていった。
立木氏も多くの女性写真の作品を発表するなど、広告・出版・映像など幅広い分野で活躍を続けている。今回は、4月にスイートベイジルで行なわれたライブの模様を立木氏が撮影したときの写真のスライドが多く投影された。ここのところライブに行く機会が多い私としては、とても興味深いものであった。なにしろライブのステージは暗く、ライティングも一定ではない。その上被写体が常に動いているのだから、撮影は本当にその場限りの判断で撮るしかない。それらの写真を見る機会がありとてもよかった。来日したアフリカの人たちとの準備については、楽譜などのない彼らだけにいろいろと当惑したエピソードもあったようだ。
写真は個人的な要素の強い表現だけに、同じ被写体でも撮影者の数だけおもしろい表現があり、その人の人生観まで反映する。いろいろなことを経験して、試行錯誤の上で自分なりのスタイルができあがっていくのであればよいが、ひとつのことにしがみついて、そこからはみだせないのでは何の発見もない。コンテストや注文写真でないかぎり自由に自然にシャッターを押すことも必要だと言う、お二人の現場主義としての考えには、とても共感するところがありおもしろかった。
最後に初心者が持ち歩くレンズについて質問している人もいたが、立木氏の「人生に回答はありません!」の一言に会場は苦笑い。それぞれの視点や焦点、さらに被写体は違うのだから当たり前だ。自分が現場にでて試行錯誤し考えればよいのに、人に聞くという人は意外と多いものだ。

渡辺貞夫x立木義浩 トークセッション

→写真はフォトログに掲載