Vol.212 旧朝香宮邸のアール・デコ 〜 東京都庭園美術館

Vol.212 旧朝香宮邸のアール・デコ 〜

目黒の東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)にて3年振りとなる建物公開展が催されている。これまで非公開であった1階の「小客室」改修工事完了に伴い行われたものだ。会期中は特別企画として茶室「光華」の公開や夜間鑑賞、限定エリアでの館内撮影許可などもあり、普段見ることのできないラリックの香水瓶などの作品も並ぶ貴重な機会だった。また、天皇家ゆかりのボンボニエール(砂糖菓子入れ)も特別展示されている。
旧宮邸の建物は、日本でも数少ない本格的なアール・デコ建築のひとつ。朝香宮(朝香宮嶋彦)殿下が事故の療養のために訪れたフランスで、1925年(大正14)にパリにて開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博)」を見る機会があった。今から80年も前のことである。感銘を受けたあと、白金に移り住む際の邸宅の主要室の内装をフランス人装飾デザイナーのアンリ・ラパンに依頼し、その空間はアール・デコ様式の装飾でまとめられたのだ。入り口正面玄関のきれいなガラスレリーフをはじめ、フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックの作品の数々が邸宅にちりばめられていた。ラリックは、ガレやミュシャと共にアール・ヌーボーを代表する作家である。ラパンと共に博覧会の主要メンバーであった。
大広間と大客室の間の「次の間」には、ラパンによるセーブル製香水塔(噴水塔)が飾られていて重厚な存在感を感じる。これらの照明に灯りが入る様はとても美しいのだろう。また、それぞれの天井の高い広間には違ったデザインの照明が…食堂にはフルーツをかたどった四角いラリックの照明がクラシカルな色合いで部屋を優しく照らしていた。
壁紙には油彩のものもある。当時ラパンがフランスにて描き上げ、送られてきたという。小客室の壁一面には、淡い緑の森の風景にところどころにある水の流れがとてもやさしい。大客室壁面の上部と、大食堂の暖炉の上にも画家でもあるラパンの作品が飾られている。大食堂の暖炉の上のオレンジ色はみごとに部屋の照明などと調和している。クラシカルな窓のカーブとその下の空調器のカバー、ドアのガラスなど細部に至るまで当時の技巧が施されていた。庭園の池の近くの茶室なども公開され、まだまだ暑い夕暮れ時に蜩の声がとても涼やかな夏の午後…。

旧朝香宮邸のアール・デコ 〜 東京都庭園美術館

→写真はフォトログに掲載(The photograph is published in the gallery)